少子化対策が叫ばれる中で、順調かと思われた「ファミリーサポート」に今異変が起こっています。
3年前に、大阪府八尾市の子育て支援制度を利用した生後5か月の女の子が死亡した事故で、女の子を預かった女性会員を業務上過失致死容疑で書類送検するというニュースが報道されました。
八尾市のファミリーサポートセンターが仲介し、生後5か月の乳児を紹介され預かった女性会員は、「乳児をうつ伏せにしその場を離れた」として両親に刑事告訴されたものです。
女性は「うつ伏せにはしたが、トイレに行った以外は、そばにいた」と主張しています。

 

行政が主導するファミリーサポートの仕組みとは

著者も在住している自治体で、ファミリーサポートの依頼会員と提供会員の両方の会員として登録をしています。
自治体に設置してあるファミリサポートセンターの市職員は、依頼会員からの依頼内容に基づき、サービス提供可能な会員を紹介するという仕組みです。
提供会員のほとんどは、定年退職者又は40~50代の女性が中心となっており、「保育園の送迎」や「提供会員の自宅での託児」サービスを提供し、依頼会員がその対価として費用を支払うというものです。
 

提供会員の真意とは・・・

提供会員になる会員のほとんどは、お金目当てではなく、空いた時間を育児などに困っている人のために役立てたいと思っているボランティア精神に溢れる人達です。基本的に、「お金を稼ぎたいから」という理由で提供会員になる人はほとんどいないと思われます。
ご理解頂きたい点として、提供会員に支払われる賃金というのは、気持ち程度の大変安い金額です。(例えば著者の在住する市では、1名を1時間預かるごとに600円、2名預かる場合は900円)
ほとんどの場合は1名のみ預かる場合が多いので、1時間600円で子供の面倒を見ます。正直な話、お金が欲しければ近所のスーパーでアルバイトをした方が稼げます。
つまり、提供会員は「地域と子育てを頑張るパパやママの役に立ちたい」と心から思ってやっている慈善事業(ボランティア活動)に近いものなのです。
今回の刑事告訴された女性会員においても、当然の事ながら、過失な点があったとはいえ、故意に今回の事故を起こした訳ではないと思われます。

 

一体何に問題があったのか・・・

今回のこの事件が起こるに当たって、何に問題があったのでしょうか?

●提供会員が乳児をうつ伏せにした。

ニュースコメント欄でも多く記載されていましたが、「うつぶせ寝にするなど考えられない」というコメントが目立ちました。しかし、「うつぶせ寝」の危険性について周知されるようになったのは、平成の時代に入ってからであり、昭和63年~平成元年頃では、うつぶせ寝が全国的なブームだったのです。

その当時アメリカでは、うつぶせ寝にすることが主流で、うつぶせ寝の方が「頭の形がよくなる」、「吐かない」、「眠りが深くなる」などのメリットが、マスコミなどを通じて全国的に広まった時期でした。

近年こそ、「うつぶせ寝」による「呼吸困難」や「乳幼児突然死症候群(SIDS)」の危険性が認知されてきましたが、昭和の時代を生き抜いてきた現在の40~50代の女性が、全員その知識を持ち合わせているかどうかを考えるならば、「うつぶせ寝でも問題無い」と考えている人は今でもいることでしょう。

著者も0歳児と5歳児の父親ですが、うつぶせ寝の危険性について知識を得たのはインターネット上で情報を検索して初めて知りました。

ではもし、「スマートフォンを使わない」「育児経験が無い」「育児の本も読むことも無い」「育児をする人との会話もあまりない」「テレビもあまり見ない」という全くの育児の素人が、自治体の講習だけを受講して提供会員になったら・・・と想像してみてください。「うつぶせ寝は危険」という情報を確実に得ていたと確約できるでしょうか?

「うつ伏せ寝」が原因だったとして、提供会員がその危険性における知識を持ち合わせていなかった事だけ問題だったのかどうか?私はこの点については、提供会員のみの問題だけでは無いと考えます。

そもそも、提供会員になる為には、サービスを仲介する自治体が実施する「提供会員講習会」なる講習会に出席し、「講習を受けたものだけが提供会員になれる」という条件をパスしなければなりません。

少なくともこの提供会員になっていた女性は、提供会員である以上、自治体の試験をパスし「自治体が認めた提供会員」となった訳ですから、提供会員としての質とスキルを認めた自治体にも責任があるといえるのではないでしょうか。

私も過去に「提供会員講習会」なるものを1日かけて受講しましたが、「赤ちゃんのうつ伏せ寝は危険です」などと言うような講習内容はありませんでした。「子どもと一緒に遊ぶ方法」や「ファミリーサポートの仕組み」、「緊急時の応急処置」などを教えて頂いたレベルで、保育に当たっての注意事項といった事については、ほとんど指導が無く、提供会員になることができました。

 

この事件が引き起こす今後の社会問題とは・・・

さて、この事件によりファミリーサポートを利用している提供会員には、衝撃が走ったことでしょう。

一応、ファミリサポートを提供する場合、気持ち程度の保険がファミリーサポートセンター(自治体)にて適用されるようになっていますので、怪我・事故などには一定の保険金が支払われるようになっています。

この事は、提供会員にも依頼会員にも行政側より説明がある為、提供会員においても「万が一の場合は、行政が守ってくれるだろう」と思ってサービスを提供してきた所もあることでしょう。

しかしながら、今回の事件において、大阪府八尾市のファミリーサポートセンターは「依頼会員と提供会員の問題なので行政は関係無い」というスタンスを示しており、「行政としての過失は無いので当事者同士で解決して欲しい」との立場を取っています。これはあんまりなのではないでしょうか?

行政が「ファミリーサポートを利用しましょう!提供会員になりましょう!」と大々的にPRし、後押ししておきながら、問題が起きれば「我関せず」という態度を取った今回の事件は、ファミリーサポートの利用者・提供者にとって、今後のファミリーサポート制度を根幹から揺るがす大きな問題点であると考えます。

 

ファミリーサポート制度の今後必要な改善点・・・

まず、提供会員としての資格を得る講習会と試験のレベルを、大幅にレベルを向上すべきです。ほとんど中身が伴っていない現状の講習では、シルバー人材センターの近所のおばちゃんレベルの人材を、紹介しているレベルなので、育児を経験したことの無い人が提供会員になる可能性もあります。

少なくとも保育士の指導の下で、1週間程度の研修を受け、必要な知識を蓄え、試験をパスした人のみが提供会員になれる様にしなければ、同様の事故はまた起きてしまうでしょう。

次に、生後6か月程度の乳幼児の送迎・託児については、サービスの提供を禁止すべきです。特に、乳幼児突然死症候群(SIDS)については、生後2か月から6か月の乳児に多く発生しており、不慮の事故によって提供会員による事故発生を防ぐ必要があります。

もしくは、生後12か月(1歳)までの乳幼児を預かる場合は、預かった場合の託児方法について、自治体が統一マニュアルを作成すべきです。

 

今回の事故については・・・

お亡くなりになったお子様のご両親は、大変辛い思いをされていると思われますが、ファミリーサポートを提供する提供会員は、育児や託児のプロではございません。また育児経験者でも無い場合もあります。

少なくとも、「知っているだろう」「分かっているだろう」で済まさず、事前に行うはずの「二者面談」の際に、「この人に預けて大丈夫か」「育児に関する知識は十分か」という点を十分に確認すべきでした。

サービスを受ける依頼会員にも、行政側から「どのようなサービスを、どのように提供して欲しいのかを具体的に伝えてください」という指示・指導が事前にあったはずです。

通常であれば、乳幼児を預けるという事は、非常にリスクの高い事である為、「やってほしくない事」「危険な事」を事前に事細かく伝えておくべきでした。

さらに、提供会員に対して十分な教育を施さず「提供会員」としての資格を現在も付与している、行政にも改善すべき問題があります。

そして最後に、提供会員においても「乳幼児を預かる場合の危険性について、事前に有識者やファミリーサポートセンターの職員に確認すべきであった」とも言えます。

今回の事故は、提供会員だけの問題ではありません。依頼会員・提供会員・提供会員を育成した自治体、この3者全てに問題があったと言えるのではないでしょうか。

 

「預けなければこんなことにはならなかった」「行政が認めた提供会員として信頼していたのに」という強い怒りから、刑事告訴されるご両親のお気持ちも分かりますが、今一度、「ファミリーサポート」の在り方について、関係する全員が考え直して頂きたいと思います。

特に各自治体職員については、何かあった時に責任逃れに走るのではなく、事故を少しでも少なくするために、今後の提供方法について再検討を強く促したいと思います。

少なくともこの記事を読んだ提供会員のほとんどは、「乳幼児は預からない様にしよう」と思ったか「提供会員を辞めよう」と思ったことでしょう。

執筆:Kagoshiman
Photo:Trend Japan

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