仕事柄、行政計画の策定作業を支援している為、様々な地域や業界の経営者や業界人の話を聴くことが多い。

筆者は地方に在住しているが、最近業界でよく聞かれる話題が「働いてくれる人間がいない」という会話だ。特に、保育士・介護士といった業種において、最もそのような意見が多い。

その様な企業の経営者の話を聞けば、働いてくれる人がいない理由として「仕事がキツイから人が集まらない」「大変な仕事だと思われている」「家族からの反対がある」等の理由を上げる。

果たして本当にそうなのだろうか?この点についていくつか分析したいと思う。

日本の生産年齢人口は減っている

なかなか実感している人は少ないと思うが、経営者が最も見落としている点として、「日本の生産年齢人口は急激に減少している」という事である。「生産年齢人口」とは、日本における満15歳以上のうち現時点で働いている「就業者」と働いていない「完全失業者」の合計数の事だ。つまり、日本で今働ける人の人数である。日本の将来推計人口などを算出している「国立社会保障・人口問題研究所」の人口統計資料によれば、2010年には8000万人いた働ける人の数は、20年後の2030年には6700万人まで減少する。つまり2割近く減少するのだ。

会社は「働いてくれる人が欲しい」と言うが、これからますます日本で働ける人は急激に減っていく。これは、つまりどういう事か。そう「労働者の奪い合いが始まる」ということである。

昨今、大企業の新卒学生の内定問題が大きく取り上げられる中で、「より優秀な人材が欲しい」というレベルから、「とにかく働いてくれる人が欲しい」というレベルへと、企業が労働者に求める質が低下してきている。それほど、企業も若い労働力の確保に必死にならなければならないほどの労働力の品薄状態なのである。

地方の労働者減少はさらに酷い

都会でさえもこの状況なのだから、若者が上京してしまう地方の状況はもっと悪い。地方の高校を卒業した若者は、福岡・大阪・東京といった大都市に夢を持ち旅立って行く方が多い。その為、地方には若者が少なく、残り少ない若者も貴重な労働力資源の為、すぐに就職が決まってしまう。

さらに自治体は、それぞれの市町村での人口減少を食い止める為に「どうすれば自分たちのところに、『住んで』『働いて』もらえるだろうか」と、人を呼び寄せる事に必死になっている。つまり、今や労働力の奪い合いだけの問題ではなく、人間自体の奪い合いが全国の市町村で起こっているのである。

無論、そのような中で住民により魅力的な案を示せるのは、人口が多く収入が多い自治体であり、そこに住む魅力に惹かれてますます人が集まっていくという現象はすでに起きている。

このような中で、地方企業、特に介護や保育事業所を経営する方々が「働く人が来ない」などと怒っているが、私から言わせれば「仕事の理想などどうでもいいから、「待遇がいいから働きたい」「給料が良いから働きたい」と言わせるような求人を出せ」と言いたくなるのが本音だ。労働者は、自宅などの不動産のローンでも持っていない限りは、特定の地域で働かなければならない訳では無い。より待遇が良い場所があれば、その場所に行って働けば良いだけなので、仕事がきつかったり、魅力を感じられなかったり、給料が安かったり、待遇が悪かったりすれば、応募自体することを諦めるだろう。

今後は、企業運営者が身を切ってでも労働者の待遇を良くしていかなければ、企業が労働者に見放され、労働力を失っていくという事もありえる時代がすぐそこまで来ているのだ。

介護や保育の事業における待遇は良くない場合がほとんど

その様な中で、介護や保育の事業における待遇は、正直な話「良くない」。

基本的に介護も保育も、「人の命」を預かる非常にきめ細やかな配慮が必要となる業種である。それぞれの業種で必要となってくる、「保育士」や「介護福祉士」は国家資格でありながら、他の職種における「国家資格」と比べると、給与や待遇における影響はとても低くなっている。

そうでなくても、「他の職種と比べて体力を使う」「生命の管理が必要」「保護者や利用者のご家族からの精神的な面でのプレッシャー」「汚物の処理」というストレスが貯まる職種でありながら、一般の事務職と同程度か、それよりも低い給与になっている求人を見ると、「この求人を見て、だれかが応募してきてくれて、良い人だったら儲けもの」といった感じでしか雇用者の採用について考えていないんだろうなとしか思えないレベルなのである。特に地方に行けば行くほど、その傾向が強く、保育士の給与が総支給で12万円の求人や、職員のほとんどをパートやアルバイトで補っている所を見れば、「この職場は長くは続かないだろう」と本気で思ってしまう。

正直な話、介護事業所だけに言える話であれば、「介護事業所は金は持っているが、低い賃金でもなんとか労働者が働いてくれるので給料を上げないだけ。出そうと思えばもっと出せる。」というのが本音であろう。事実、都心方面での介護事業所では、総支給で30万近くを貰いながら、賞与で年間100万近く貰う介護職もあるなど、介護職だけで見てもその給与格差はますます広がっているのである。

これも、労働者の減少に危機感を覚えている企業と、そうでない企業の差が「労働者の待遇」における違いに明確に表れてきたという事であると筆者は考えている。

以前と同じではない 事業者は現実を見よ

少子化、そして高齢化が進む中で、今後ますます状況は悪くなっていく。若者の晩婚化(結婚が遅くなる事)、出産数や出産率の低下、保育園問題など、子供の数はますます少なくなっていく。

高齢化が進み、高齢者はやがて働けなくなり、今働けている人たちも高齢になるにつれて仕事の効率が落ちたり、一部の体力的負担のある仕事はできなくなっていく。労働力を確保できずに、事業をやめる必要がでてくる企業もあるだろう。

正直な話、国もお手上げ状態なのである。国を挙げて少子化に取り組む姿勢は見せているが、全体の取組傾向として「人口が減少してもなんとか維持できるようにするためには」という方向性で動いている自治体がほとんどである。

そのような中で労働者不足にあえぐ事業者ができることは、企業同士で労働力を奪い合う時代の中で、『いかに労働者への仕事の魅力(仕事内容・給与・待遇・福利厚生)を向上させ、PRしていくか』という点であろう。

そして、現在働いている労働者を手放さない為に、労働者との意思疎通や待遇管理に注意を払う事も必要である。

 

企業の事業者は、今後20~30年後のビジネスプランを検討する上で、労働者の確保について本当に真剣に検討して頂きたい。

今や企業が労働者を選ぶ時代ではなく、労働者が企業を選ぶ時代になっているのである。

労働者に見放され、そして労働者に選ばれなくなった企業には、『廃業』という終わりが待っている。

 

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